土地所有権の放棄について

先日、西日本新聞が「近隣襲う竹林…管理限界 相続の80代、資金が底 放棄は法で認められず」という記事で、土地所有権の放棄が絡む問題を報じていました。
土地の私的所有が認められていることと引き替えに、土地所有者には民事上の責任(民法717条)と刑事上の責任(刑法209条等)が負わされています。
本件で崖から竹林が落下して近隣の住民に人的・物的損害が発生すれば、崖を所有している80代の女性は、法的には損害賠償責任を負うと共に、刑罰を科されるおそれがあります。
しかも、損害を与える危険を知っていながら放置していることを重く見れば、「悪質」だと評価されるおそれさえあります。
しかし、資力の乏しい80代女性に損害賠償責任を果たせるのか疑問がありますし、この女性を処罰しても何等の解決にはならないと思います。
この問題の本質は、資力もなく土地所有権から得られる利益も乏しい場合であっても、多大な管理費用の支出を余儀なくされることの不合理性ではないかと思います。
一般論として所有権の放棄は自由です。そして、土地についてのみそれを一律に否定する根拠は見当たりません。この点、負担を免れるためだけに放棄するのはけしからんという批判もあるようですが、放棄前に既に生じている具体的負担については、公序良俗違反または権利濫用法理により免れることはできませんので、この批判は妥当しません。ポイントは、将来発生することが予測される負担について、当該私人と国のいずれに負わせるのが、土地基本法の定める「土地についての基本理念」に適合するのかということだと思います。
30年ほど前にいわゆる「原野商法」被害で、無価値の山林や沼地を買ってしまった人がいます。その人たちは既に亡くなっているか、かなりの高齢になっているものと推測されます。
すると今後、原野商法で購入してしまった土地を巡って、報道されているような問題が益々増えてくるかもしれません。
いずれにしても、国や市町村はその智慧を結集して対応策を考え出す責務がありますし、適正な土地所有権の放棄を可能とする法制度の整備も進めるべきではないでしょうか。