先般、不当解雇に対する金銭補償制度の導入に関して、規制改革会議
の答申がなされた。
ここで検討されている制度は、「裁判」にて不当解雇であることが
確定した場合に、従業員が望むならば、職場復帰せずに金銭補償を
受けた上で雇用契約を解消することを認めるものである。
ここで注目したいのは、不当解雇であることが「裁判」にて確定
した場合に限られていることである。ここにいう「裁判」とは、
世間一般でいうところの「訴訟」のことであり、あっせんや労働審判
は含まないのである。
ここ10年ほどの間で、解雇を含む個別労働紛争の解決手続が充実した。
訴訟以外にも、労働審判、労働局あっせん、労働委員会あっせん、
社労士会などの民間ADRセンターあっせんなど、訴訟より迅速に解決
を図れる手続が整備されたのである。ほとんどの個別労働紛争は、
これら訴訟以外の手続で解決されている。
なぜか?それは、訴訟は多額の費用がかかるからである。この点、
労働審判やあっせんならば、訴訟ほどの費用をかけずに済む。
仮に、不当解雇に対する金銭補償制度が導入されても、この事実
が変わるわけではない。依然として、訴訟で不当解雇を確定させる
には、労使双方、多額の訴訟費用を負担しなければならないのだ。
不当解雇が訴訟で認められる確率は、五分五分ぐらいであると
いわれる。解雇される従業員には、少なくとも裁判所が不当とは
認めない、それなりの理由があるケースも多いのである。
また、不当解雇に対する金銭補償制度が導入されたからといって、
労働契約法の定める解雇規制そのものが緩和されるわけではない。
したがって、不当解雇に対する金銭補償制度が導入されたとしても、
ゆめゆめ安直な解雇を行ってはならない。従前どおりに、解雇回避
の努力を尽くさなくてはならないのである。
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